10年ぶりの歯医者その2~親不知抜歯~
そうして、カラオケで大騒ぎをしているうちに、
その日はやってきてしまった。
3次会で主賓がへべれけで帰っていったあと、
ふと思い出してしまった。
あ。今日の夕方は、親不知抜くんだ、と。
その考えにたどり着いてしまうと、先ほどまで
うまかったはずの酒の味がよく分からなくなって。。。
そして、その日の午後。
親不知のことをぼんやりと考えていたら、
2週間に一度、絶対欠かさなかったはずの、
マッサージの予約のことをすっかり忘れていた。
しかも、自分ではそのことにまったく気づかず、
気づいたのはマッサージのおねいさんからのメール。
あーーーー。
唯一の週末の楽しみがーーーー。。。
空いてしまった時間を、ショッピングしながら
つぶすも、気になるのは口の中の、左上の
奥のほう。
本日抜歯の対象となる、親不知だ。
歯医者なんて行きたくない。
でも親不知が気になって買い物できない。
気づいたら、予約の15分前には歯医者に
到着してしまっていた。
こういう日に限って、なんだか空いている。
時間をかけて水でも飲んで心を落ち着けようと
したのに、水を汲んだところで名前を呼ばれる。
「お水、飲んでからでいいですよー」
歯科衛生士のおばちゃんからのやさしい一言。
お言葉に、甘えちゃいます。
部屋の中では相変わらず、「天使にラブソングを」。
この前見ちゃったので、できれば変えていただきたいんですが。
って、今回はそんなの見てる暇ないと思うんですが。
今日も、担当は若いおにいちゃん先生。
たれ目の顔が、どうも頼りなく見えて仕方ない。
おにいちゃん、今日は君が頼りなのよ!
「この前薬を詰めたあと、親不知の調子はどうですか」
「薬を詰めた後は、痛くないですよ」
「そうですか。それだけ症状が落ち着いてるんなら、
今日抜いて行っちゃいましょうか」
!!!!!!
回答間違えた!
まだ痛いです、って言っておけば、
今日抜かなくてよかったかもしれないんだ。
でも、答えてしまったからには仕方ない。
分かったよ。
もう抜いちゃってよ。
ポーンと抜いちゃってよ!
なにやらがさごそと用意を始めるお兄ちゃん。
私は、美容院ばりに顔にタオルをかけられており、
何を用意しているのか全然分からない。
「まずは塗る麻酔ですねー」
塗る麻酔。
それは、以前HPで見たときに学習した、
「痛くない」歯医者の要素、その1。
ええ塗っちゃってください。
ごしごし塗っちゃってください!
しかし。
予想に反して、先生は、ちゃちゃっと麻酔を
少量塗るだけ。
先生、麻酔の量、足りないんじゃないですか?
そしてまたなにやらがさごそやり始める先生。
注射のときもさ、できる限り手元見ないほうが
痛くないっていうけど、やっぱり気になるよね?
私、なんだかんだ言って、横目で見ちゃうタイプ。
注射の針をね。
今回も気になって、タオルの隙間から
外の様子を伺うんだけど、全然見えない。
先生!私に何しようとしてるんですか!
「じゃあしっかり麻酔打ちますね。
最初ちょっとチクッとするかもしれません」
ついに、この瞬間が。
小さいころ、一番嫌いだった麻酔の瞬間。
あの、硬い歯茎の中に突っ込んでいく針の太さよ。
しかし。
チク、という感覚すらしないのである。
歯茎の中が重くなっていくような、しびれていくような
感覚はなんとなくあるのだが、あのぶっとい針が
ぶすっと刺さる様子はまったくない。
その後、何度か先生が針の位置を変えて、
注射しなおすのは、なーんとなく分かるんだが、
一体何箇所に打ち込まれたのかはまったく
分からない。
それほどに、打ち込まれている感覚がないのだ。
先生、たれめの割に、いい腕してるよ!
そうして、麻酔終了。
しびれた口をうがいしながら、
一体あの夢のような「痛くない」麻酔注射は
何であったのか確かめる。
と。
そこにあったものこそ、「痛くない」歯医者の要素、その2。
「電動麻酔注射」。
人間が麻酔の量をコントロールするのではなく、
電動で、すこーしづつ麻酔を打ち込んでいくから、痛くない。
さて、本番。
親不知抜歯。
先生は、麻酔の効き具合を確かめてから、
おもむろにさっきまでと反対(=私の左側)に
立った。
どうやら、座ったままでは力が入らない、らしい。
「痛くはないと思うんですが、どうしても、歯を後ろに
押すので、窮屈な感じはすると思います。
あと、口を結構横に引っ張るので、それはちょっと
痛いかもしれませんが、痛かったら言ってください」
はぁ。
と、先生がペンチを口の中に突っ込む。
口がおもいっきし横に引っ張られる。
痛くはなかったのだが、お兄さんがあまりにも
力強く歯を後ろに押すので、ちょっと驚いて、
ちょっと声を上げてしまう。
と。先生、作業中断。
「痛いですか?」
「いや、痛くはないです」
(びびっただけです)
それにしても、先生の声はなんとせつない。
何を言われても、ちょっとテンション下がる。
そうして、2分もそういう状況が続いただろうか。
最後に、ミシ、という嫌ーな音がして、歯が、抜けた。
血を止めるために、ガーゼを食いしばりながら、
ボー然と、抜けた親不知を見つめる私に、
先生は言った。
「えと、歯、もって帰りますか?」
・・・大人の歯に生え変わる乳歯だったら
もって帰るところですが、親不知はいらないっす。
帰りに、痛み止めと化膿止めをもらって
会計をするときに目に付いた時計を見ると、
時間は、私が歯医者にたどり着いてからまだ30分
しか経っていなかった。
意外にあっけない、親不知抜歯。
あーあ。
全然痛くなかったけど、歯がしびれているこの感覚とか、
口の中にぽっかりと空いた穴とか、抜かれた後の
あの親不知のビジュアルとか、病気でもないのに
これから3日間化膿止めを飲まなきゃいけないこの
状況とか、そういう数々の要因が重なると、なーんか、
テンション下がるわー。
そして2日間。
結果的に、痛み止めは必要なかった。
血は最初の1日は少し出ている感覚はあったが、
もう口の中が血の味、という物騒なことはない。
気になるのは、親不知のあった場所に空いている、
大きなブラックホール。
これは、いつか塞がるんだろうか。
さて、結果として、
・麻酔は、もう痛くない。
・親不知抜歯も、痛くない。
・でも、テンションはだだ下がり。
というわけで、痛くないからといっても、
やっぱり虫歯なんていけてない、と思った、
よく晴れた週末の出来事でした。
さて、気を取り直して今日マッサージ行ってこよ。
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