2011年6月 9日 (木)

3姉妹と、親の願い

昔、私がまだ小さかった頃、父がお土産で買ってきたのは
3膳の箸。

そこにはそれぞれ願い事が書かれていて、
父は何の迷いもなく、それを3姉妹に振り分けた。

私に割り振られたのは
「頭がよくなりますように」

真ん中は「足がはやくなりますように」

そして一番下の妹には、
「かわいいお嫁さんになれますように」

思えば、このころから、うちの姉妹は役割分担を
してきたのだった。

私は勉強に励み、真ん中はスポーティで、
そして一番下はみんなにかわいがられる担当。

母親は、どうして同じ環境で育ってこんなに性格が
違うのか
と不思議がっていたが、私は昔から知っていた。
それは、君ら親の願いなのだと。

元来、私たち3人は似ている、と私は思っている。
気が強くて、のめり込むとなかなかやめられなくて、
そして、親の期待にはこたえようとする

のめり込んだものは、3人とも音楽で、姉のあとを
追ってみんなでピアノを習い、吹奏楽部に入って、
3年ではやめられずに6年やった。

そして、親の期待。

父親の「願い事箸」のとおり、私は東京で頭を使う仕事(?)、
真ん中は田舎で体力を使う仕事。

そして、一番下は・・・
この前結婚式を挙げた。

親は、なんだか順番が違うような。。。とか、
まだ早いんじゃないか。。。とかいろいろ言っており、
私だっていろいろ思うところはあるけども、なにしろ
これが、親の望んだことなんだからいいじゃないか。

妹が、彼と家族のために得意な歌を披露したあとで、
苦手だった作文を一生懸命読んでいる中、周りは
ぐしゅぐしゅと泣いており、私もやっぱりちょっと
泣いたけど、こんなことを考えていたのだった。

しかしながら、どうやら親が子供に求めることというのは、
1つづつではないのだそうで。

あれだけ「頭がよくなりますように」と願っていたはずの
親は、同時に「お嫁さん」にもなってほしいのだそうな。

親の期待に応えていくのって、大変だ。

2011年5月 7日 (土)

おひとり様映画館再開~八日目の蝉~

11ヶ月、サボっていたblogなるものを、
気まぐれにもふと、なんの覚悟もなく、
再開してみんとす。。。

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2ヶ月以上も映画館から遠ざかっていたのは、
なんとも意気地なしな理由からだった。

あの地震から1.5ヶ月。
とにかく怖かったのだ。
暗いところに閉じ込められるのが。

それでも、いつまでもそんなこと
言ってられないから、勇気を出して
例のごとくおひとり様でやってきたのは、『八日目の蟬』

それにしても、困ったのはこの花粉症だ。
しっかり泣くつもりでやってきたのに、
始まる前から、すでに鼻がぐじゅぐじゅである。

しかし、花粉症のせいにしていられたのも最初の
10分といったところか。

裁判シーンから始まる映画。
私から、一番かわいい時期の子供を奪った、と
責め立てる本当の母親に対して、裁判の最後に
希和子(永作)が一言言うのだ。

私に、子育ての機会をくれて、
ありがとうございました


と。

本を読んでから映画館に来ている私には、
もうそれだけで、お腹いっぱいである。

と言っても、これは本のように、最初に希和子目線で
語られるものではない。
裁判が終わると、出てくるのは、大人になった
薫、いや、恵理菜(井上)。

そう。映画では、大人になった恵理菜に導かれる様に、
あのときの希和子と薫が現れる。

本だと、どうしても最初に語られる、希和子の言葉に
同情してしまって、不倫容認、はたまた誘拐容認
みたいになってしまうが、最初から恵理菜と
希和子&薫を交互に出していくことで、ある意味
公平に、事態を判断していくことができる。

でもだから悩んでしまう。

結局これは、誰が悪かったんだろう。
被害者って誰なんだろう。
まして加害者って?

そんな私の疑問を抱えたまま、それでも
恵理菜が薫を探しに行く旅は進んでゆく。

そして「薫だった頃」を思い出せたとき、
その胸に去来したもの。

それは、加害者だった、誘拐犯だった「母」の、
どこまでも無償な愛
…だったよね、きっと。

不倫はダメ、誘拐はダメ、そんな感想を最後に
持った人も多いようだけど、個人的には、
それがどんな形であれ、幼い頃に愛されていた
記憶がしっかりしていれば、きっといいお母さんに
なれる、という希望を持てた映画だったと思う。

…と、2時間半で、さっきもらったばかりの出会い系の
ポケットティッシュをほぼ使い果たして顔も鼻も
ぐじゅぐじゅで映画館を出た私は、最近どうしても
考えてしまう思いを新たにする。

私、このままだと人生のどこかで希和子と似たような間違いを
犯しそうだ。ほんとに。

2010年6月 5日 (土)

告白

5月の終わりのとある火曜日。
私は朝からやきもきしていた。

お給料日に届いた試写会の当選はがき。
当然ありがたく使わせてもらうつもりでいたのに、
その日の朝は、なんだか怪しい雲行き。
(いや、天気がどうこうじゃなくて)

最近の政権みたいに、その日の予定は刻一刻と
変わっていき、そのたびに、「試写会だめかも」
「試写会いけるかも」とやきもきしていた午後5時。

「やっぱり国会は延期します」という
お知らせがやってきた。

政権が変わらないなら特に今日はもうここにいる
必要がない、と即判断し、1時間休、という斬新な
仕組みを使って会社を飛び出した。

向かった試写会は、松たか子主演「告白」

本屋大賞を受賞したという本作品は、新宿じゅうの
本屋で平積みになっていたが、あんだけすごい勢いで
平積みされると、こちらも萎えてしまうもので、だから
いつも予習重視の勤勉な私が、原作を読まずに
映画を鑑賞するという、珍しいパターンとなった。

雑然とした教室で、誰も聞いていないスピーチを、
松たか子がやっている。

最初は取り留めもない話が、だんだん核心に
迫ってきて、そして言うのだ。

「娘は事故で死んだのではありません。
このクラスの生徒に殺されたのです」

これが、松たか子の告白。

と、ここまで、私の話すあらすじを聞いた友達はみんな
声をそろえて聞く。

「え?なんでそんなこと分かったの?」

違う。みんな違うんだって。
そういう謎を解いていくサスペンスじゃないのだこれは。

この話は、ここから始まる、松たか子による
娘を殺した「犯人」たちへの復讐劇

あ、ちょっと違う。
正確には、この話をしているときには、もう1つ目の
復讐劇が封を切られた後であったわけだが、松たか子は、
「犯人」たちに、殺すよりももっとひどいかもしれない
「生き地獄」をじわじわと与えてゆくのだ。

そしてこの後は、「犯人」であるところの生徒や
それを取り巻く生徒、またはその家族などが、
それぞれの立場で順番に、時には折り重なるように
「告白」をしていくのだが、やっぱり圧巻は、
松たか子の「告白」である。

決して噛まず、決して泣かず、決して声を荒げない。
(いや、最後の最後で1回だけ荒げるけど)

なのに、彼女の告白には、なんていうか、戦慄
してしまうのだ。

「下妻物語」とか、「嫌われ松子の一生」とかの
監督の作品であるため、ごてごてこってり演出過多で
音楽過剰であるわけだが、そんなもの、ものともしない
ほどの、松たか子の朗読力(告白力?)。

2時間弱、次から次へと繰り広げられる絶え間ない
復習劇には、始終鳥肌立ちっぱなしで、その辺の
ホラー映画とかより全然怖い。

と、映画はとにかく、復讐の嵐を肌で感じる
エンターテインメントの世界である。

一方、映画の興奮が忘れられずに、ついに平積みから
1冊抜き取って購入してしまった文庫本のほうは、
本であるからして、スピード感というものとは無縁の
作品である。

ただ、話の構成は、映画と同じく、ト書きは一切ない、
オール「告白」で成り立っている。

映画なら、まだ、相手がしゃべらなくても、反応が見えるから、
まったく一人になることはないわけだが、本になると本当に
一人で勝手にしゃべっている状況である。

でも、反応が見えない分、その人の言い分をはっきり
「聞ける」というか、「読める」

そして、映画では完全に意味のわからなかった少年たちの
正体が、少しだけ見えてくるのだ。
(結局、幼い子供を最終的に殺してしまう、その心情は
どんなに考えてもよくわからないけども)

一番悪い、というか、一番狂ってるのは、犯人の
生徒たちであるが、その周りの一見「フツーの」生徒たちも、
周りの大人たちも、みんな少しづつ頭おかしい。

いや、おかしいっていうのは、周りから傍観しているから
分かるのであって、当事者になってみたら、私だって
きっと頭おかしくなるのだと思う。

最初は、少年法の穴をつつく目的のお話かなぁ、とは
思うけど、きっと、この話の本質は、そんな回りくどい
ことじゃなくて、もっと単純に「身近にある狂気」
描いた物語。

最近、ドラマでも映画でも「どーせこうなるんでしょ?」と
予想のついてしまう話の多い中、久しぶりに、結果の
わからない話に翻弄される楽しみを感じるお話であった。

告白 告白

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2010年5月 5日 (水)

新しい家族

もうこんな年なんだから、「新しい家族」と言えば、
普通は私の子供だったりするわけだが、そんなこと
あるはずもなく。

ゴールデンウィーク初日の夕方、家から1時間半もかけて、
私はある東京郊外の駅にたどり着いた。

きょろきょろしていると、「行くぞ」と声をかけられる。
父だ。
どうやら、私がたどり着く1時間前には駅にいて、
変な宗教の人に話しかけられたり、交番での「被害者」と
警官の話を盗み聞きしていたりしたらしい。

新しい家族が、待ち遠しくて仕方ないのである。

でも、父はウキウキしながらも、あくまでも行き先を
語る気はないらしい。
行き先を告げないまま、車は出発する。

とはいえ、実は私は行き先を知っている。
姉妹ネットワークをなめるなよ。

いつも通り、カーナビで設定してあるにも関わらず、
迷いながら店に到着。
その店は、国道を曲がって細い道に入ったところから、さらに
細い道に入ったところにひっそりとあった。

車を降りて店に向かう。
と、そこには、自動ドアがしまらないように押さえながら立つ、
やたら人相の悪いおじさんが1人。

これはあれだ。
よくテレビに出てくる、取材してはいけない店の
料理人
の目つきだ。

ギロッとこちらをにらんで、その料理人は私たちに
いくつか質問をしてくる。
ちなみに、まだうちらは自動ドアの外である。

「HPを見て店に来た?」
「はい。」
「じゃあ注意事項等は心得ている?」
「はい。」
「今日は買ったら持って帰れる?」
「はい。」
「最初に抱くウサギはもう決めている?」
「はい。」

本能的に、ここは言い淀んだら負けのような
気がして、私はさらっとしかHP見てなかったけども、
とにかく私は即座に答えた。

すると、その料理人はすっと自動ドアから離れて、
店に入ることができた。

第1関門は突破、らしい。

中には、あの怖い料理人からは想像もできないほど
かわいらしいウサギがひしめき合っていた。

「おい!このお客さんウサギ決まってるから、ウサギ出して!」

と、その料理人の息子的な少年なんだか青年なんだか、
とにかく、童顔に生えたてのひげを生やしたようなよくわからん
やつがうちらを奥に案内してくれ、うちらに尋ねる。

「どっちが抱きますか?」

新しい家族、とは言っても、そいつの住所は実家の
住所になるのであって、私と同居はしないので、私が
抱っこしても仕方ないだろう。
と思って、父のほうを見るのだが、父は知らん顔。

おい。お前が飼うんだろうに。

と、私は父のほうを指して、「あ。こちらが」と
言おうとしたところ、ちょうど父が答えた。

「あ、この子が。」

・・・私かよ。

ウサギを抱っこする、と言っても、膝の上に乗っけてみる
だけだけど、そうすることで、ウサギの性格とか、飼い主との
相性とか、そういうのが分かるようなのだ。

というわけで、飼い主でもないのに、ウサギとの相性を
確認することになってしまった私の膝の上に、ウサギが
乗っかる。

お尻を押さえて、頭をなでてみる。
急に小屋から出されて知らない女の膝に乗っけられて
緊張しているウサギは若干フルフル震えたまんま、
動かない。
まぁ当たり前か。

父は、ウサギの顔を見て、なんだかすごく満足した
ようで、5分もするともう「これにしよう」と決めた様子。

なにしろ、「前のウサギにそっくり」らしいのだ。

前のウサギ、というのは、5日で死んでしまった
2代目ウサギちゃん。

2代目ウサギちゃんは生まれて1ケ月で
死んでしまった。
今抱っこしているウサギは生後6週間なので、
大きさこそ前のウサギとは違うが顔と模様が
そっくりなのだそうな。

そこから始まる、前のウサギトーク。

「水飲まなかったんですよねー、1回も」
と父が言いだすと、どこからかやってくる
料理人。

「水飲まないからレタスあげたんですけど、下痢に
なっちゃって」

「それは全然意味わかんないね、水飲まないから
レタスあげるなんて」

厳しい一言。

「あと、寒かったので、電気シートもひいてあげたんですけどね」
「あー、それはもう、みんなで殺しにかかってるような
もんだね」

ウサギは、消化の仕方が人間と違って、細菌で発酵させる
方式なのだそうで、だから電気シートとかでお腹温めて
しまうと、胃の中の細菌バランスが狂ってしまうらしく、
だから、体を直接あっためるのは厳禁らしい。

でも、ウサギ用電気シートって、ちゃんとペットショップで
売ってる代物なのだけど。

「小屋はすのこでいいですか?」
「すのこ?すのこで飼うんなら、ウサギは売れないね」
「え!じゃ、じゃあこの金網のやつ、買います。。。」

とまぁこんな調子で、ウサギ経験者都は思えないほど、
うちら親子はこの頑固親子にコテンパンに怒られた。

その頃、私はウサギから手を離す許可を与えられ、
お尻から手を離すと、ウサギが膝の上でひょいひょい
動き始める。

隣でほかの人に抱っこされているウサギは
手を離してもびくともしないところから比べると、
非常にリラックスしているように見える。

「もう1羽、だっこしてみますか?」

と息子に聞かれるが、父はもうすっかり、このウサギに
決めたようで

「いいですよこのウサギで」

それでも、もう1羽抱っこすることによって、他の
ウサギと比較ができるので、抱っこすべきだ、という
息子の意見にしぶしぶ従い、私がもう1羽抱くことにする。

来店して30分。
手持無沙汰の父は、他のウサギを見て回って
指突っ込んで遊んだりしている。

結局、もう1羽抱いてみたものの、結局はやっぱり
前のウサギに似ているということで、1羽目のウサギを
買うことにすると、今度は「おかみさん」の説明が
始まる。

ウサギへの餌のあげかたをレクチャーし、それから
「1週間は小屋から出さずに様子を見ること」など、
基本的なウサギの飼い方をレクチャー。

途中、餌の補充を求める他の飼い主から電話が
かかってきたり、1ケ月検診にやってくる人への対応などで
しょっちゅううちらへの説明は中断し、そもそも注意事項が
やたら多く、これらの説明に軽く1時間。

でもこれも、きちんと聞かないと、
「飼い主として不相応」という烙印を
押されそうな気がして、私は愛想よく、「はい」
「はい」と答える。

本当のところの飼い主であるところの父は、相変わらず
他のウサギにちょっかいをだして回っているから、ここで
私がぼろ出そうもんなら、このウサギを連れて帰ることは
ままならないだろう。

その証拠に、さっきウサギを買いにやってきた親子連れは、
「子供育てるのとウサギ育てるのは
同時にはできない」
と言われて、あえなく
リタイヤしてしまっている。

そんなこんなで、夕方に店に行ったのに、ウサギを連れて
店から出たのは、もう宵の口。
2時間近くもお小言を言われていた計算になる。

「あーあ、ながかったなー」

と、自分は話なんか聞いてもないくせに、疲れた様子を
見せ、父は車を発進させる。
キャリーバッグのウサギは、私の膝の上だ。

それにしても、店から家まで、高速で4時間弱。

店のおかみさんは緊張で、水なんかあげても飲まない、というが、
4時間も水飲まないのは非常に心配なので、SAでの休憩のときに、
軽く水をウサギにあげてみる。

飲まない。

水なんてないかのように、ウサギは鼻をひくひくさせ、
キャリーの中を歩き回り、軽く水をこぼして、そこで私は
一回あきらめた。

再び発進する車。
ウサギは再び私の膝の上で、キャリーの上から鼻を
出して、外の様子をうかがっている。

それから1時間。
再びSAに入って、もう1回水をやってみる。
この前のウサギが水飲まなくて死んでしまったこともあり、
私も父も水にはとっても神経質になっている。

またもや鼻をひくひくさせているウサギ。
また飲まないかなー、と私は少しあきらめモード。
父も外で煙草を吸い始めた、その時。

ウサギが、ペロッと水をなめた。

おお!飲んだ!と私は叫び、父は車に駆け込んできて、
このときウサギは、うちの家族になった。

それから5日。
1週間は小屋から出すな、と言われた頑固親父の
教えはすっかり守られることなく、ウサギはここ2日くらい、
餌を変えていれば必ず小屋からはい出てきて、人の
顔見えれば「だせやごるぁ」と小屋をがじがじかじり、
5日にして、我が家のボスになった。

一方、私は今日からまた一人。
早いとこ、夏休みになってまたウサギと戯れたい。。。

2010年4月30日 (金)

父と3○の…

父と3、とくれば、父と3人の娘たち、と来るのが
通例であるが、今日は3人ではなく、3羽、の話。

連休前の水曜日。
早めに1次会を切り上げた私たちは、どうやって
おじちゃんたちをまいてカラオケに行くか画策していた。

と、何気なく取り上げた携帯に着歴。

珍しく、父からの電話である。

気になったのでかけなおしても携帯には出ないので、
実家にかけると、またもや珍しく、父が自分で電話をとった。
どうやらご機嫌らしい。

「いつ帰ってくんの?」と父。
「土曜日、だけども」と私。

「じゃあ○○集合ね!」と、父は、突然、とある
東京の郊外の駅を指定した。

は?なんでそんなところなの?

と、怪訝そうに聞くが、父は
「ちょっとね!ちょっと用事があって!」
と、ご機嫌だけど用件は明かさない。

まぁ別に、それで私の新幹線代がただになるのなら、
と、了承して電話を切るが、どうも気持ち悪い。

どうしても気になった私は、次の日実家に電話してみる。
父の電話にかけなおしなら父が出るかもしれないが、
こっちから何の脈絡もなく電話して、父が出るということは
まずないので、父以外の誰かに事情を聞くのは簡単だ。

電話に出たのは、妹だった。
家には誰もおらず、退屈していた妹は、
こちらがこの後出かけるというにも関わらず、
必要以上にべらべらしゃべってくれた。

「お父ちゃん、なんで東京来るか知ってる?」
「お姉ちゃん聞いてないの?」

…聞いてないよ。

「ウサギだよ」

―――――――話は、約1ケ月前にさかのぼる。

土曜の朝、妹から一通のメール。

飼い始めてから3年になるウサギが、その日の朝に
なくなったというのだ。

思えば、全然家族になつかなかったウサギ。
自尊心が強く、ときどきヒステリーで、家族を困らせて
ばかりではあったが、それでも気が向けば家族の後を
ついて回ったり、なでてもらいにやってきたり、その
ツンデレっぷりがかわいらしかった。

それから1週間後。
父の誕生日だったその日、引っ越しのあとで金もなく、
プレゼントも買ってない私は、せめてもの思いで父に
電話してやった。

それが、である。

「何かほしいものとかあるの?」と聞いた私に、
「この前ウサギが死んじゃってさぁ、」と全然違う
話題を返してくる父。

それは知ってる、と答えた私だが、どうも話が
噛みあわない。

かわいかったんだぞぉ、
おれの手の上乗ってきたりさ、

と父は言うが、それが全く私の思い出と重ならないのだ。
あのウサギは、父の煙草の匂いが嫌いで、父が近付くと
大変な勢いで逃げて行ったものだ。

しかも、もっとも噛みあわないのは、
「でもさぁ、かわいそうに、4日で
死んじゃってさぁ」

いやいや、3年生きたでしょう。
と、聞き返す私に、父はやっとちゃんと説明した。

昨日の妹の説明と合わせて説明すると、
こんな感じだ。

ウサギ(あ、分かりにくいので、ここからは初代ウサギ
しよう)
がなくなったその日、父は大急ぎで新しいウサギを
手に入れるべく、妹がウサギを買ってきたペットショップに
向かったが、いけてるウサギがおらず、その日は仕方なく、
家族4人で動物園のウサギを見て帰ってきたのだそうな。

それでもあきらめきれない父は、次の日、ウサギを求めて
隣の県まで赴き、次のウサギ2代目ウサギとしよう)を買ってきた。

このウサギが、父が電話で言っていたウサギちゃんである。

初代ウサギは、ネザーランドドワーフ、という種類の、
耳がピンとたった、飼育されるウサギの中では最も
小さいタイプのウサギちゃんであった。

ピーターラビットのモデルでもあるこのウサギちゃんは、
小さくて飼いやすいんだけども、あまり性格はよろしく
ないらしく、気が強くてプライドが高く、しかも、うちにやってきたのが
生後3~4カ月くらいの思春期で、もうなかなか人になつかない
時期であったため、かなりひねくれた大人になってしまったのだった。

それに比べ、2代目ウサギちゃんは、ホーランドロップという
種類。
ロップ、という名のつくウサギでは、イヤーロップというウサギが
有名であるが、これはぶっちゃけでかすぎて飼いづらいと思われる。
ホーランドロップは、ネザーランドよりは少し大きいけど、
イヤーロップより小さく、比較的飼いやすい。

そして何より、性格がよく、だから父も簡単にウサギに
受け入れてもらえたのだそうな。
4月と言えば、まだ生まれたてで、誰がどんなだか
分からないということもあっただろう。

生まれたてだからかわいい、だけど、生まれたてってことは、
離乳したばかりだから、免疫がきれて病気になりやすい。
そして病気になるともう治らない、そういう微妙な時期に
あの不安定な天気。

まぁ無理もなかっただろう。
亡くなる前日、病院に駆け込んでも、医者は、
もうこの時期に病気になったら、治らないよ、と
つめたい反応だったらしい。

私が電話をしたのは、そんなことがあってから、
1週間後のことだったから、父の頭はもうウサギで
いっぱいだったのだった。

「でね、お父ちゃん2代目ウサギとおんなじウサギがほしくって
それからずーっとネットでウサギ調べててね、名古屋と東京に
いいウサギ屋さんがあるんだって言うんだよ」

と妹。
ウサギ屋さんって、昔からあるジャンル?

あ。名古屋。だから名古屋。

あのとき、父は電話で言っていたのだ。
「ゴールデンウィークは、名古屋行くから!名古屋!
日帰りで!」

日帰りで名古屋はムリだろう、と散々私が反対したから、
だから東京になったのか。
言えよ父。

「でね、お父ちゃん、一人でウサギ買いに行くと、
帰りウサギ心配で運転できないから、だから誰かに
ついてきてほしいんだって」

あ。それで私。
誰かとずーっと一緒というのが、父は嫌いなので、
帰りだけ私と一緒くらいがちょうどよいのかもしれない。

というわけで、父は明日、車を飛ばして
日帰りで東京へやってくる。

そして、おそらくは3羽目のウサギちゃんと、
2人と1羽で帰ることになるのだ。

父のこと散々バカにしながら、我が家の女性陣も
今頃ひどくウキウキしていることだろう。
もちろん、私も。

«クラシックに溺れながら考える。

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